リポートリポート

教育旅行プログラムで見えた理想と現実

近年、「修学旅行」が変化していることをご存じでしょうか。

 2017年に学習指導要領が改訂されて「社会に開かれた教育課程」が重要視されるようになったことに加え、コロナ禍で学校行事が相次いで中止になったことで、修学旅行や校外学習の見直しがされました。 

 その結果、修学旅行や校外学習は各個人が様々なテーマを掲げて探究するアクティブラーニング型の学校行事へと変化してきています。そして「リアルな社会」を題材に生徒たちが学びを得るために、旅行先を都市部から地方へ変更する学校が増えてきました。このように修学旅行が変貌を遂げている中、十勝うらほろ樂舎でもこのような修学旅行生の受け入れプログラム(以下、教育旅行プログラム)を行っています。

 2023年5月、私は十勝うらほろ樂舎の教育旅行プログラムのメンバーとなりました。教育旅行プログラムの主担当である浅野さんから「一緒に事業組み立てを考えてくれる人がほしい」との依頼があってメンバーとなることを承諾し、言われたのは「まずは6月の高校生受け入れ対応をしてほしい」ということでした。 

自身初めての受け入れ対応。主担当のスタッフも未経験の内容で何をしたら良いのか分からない!

浦幌に来て3年目、これまで教育関係に携わって活動してきましたが、町外の子どもたちの対応をしたことも、参加者の方から大きなお金をいただくような企画もしたことがなく、何から手をつけて良いのか分からない状態でした。浅野さんに「今どういう状況なの」「先生方とはどんなやり取りをしてきたの」「先生はどんな想いを持っているの」「これまで対応の時にどんな準備をしてきたの」など、しつこいと思われかねないくらい質問責めをしました。しかし、「今回の受け入れはこれまでみたいに200人規模で半日とかではなく、少人数で3泊4日。前例が無くて分からないの」という答えが返ってきました。「自分はまず何をしたら良いのか」が分からないし明確な指示を出す人もいない状態。正直、「受ける業務を間違ったかな」なんて思いました。

 でも良い点もあります。それは浅野さんと私が本音でぶつかり合える仲だということです。聞きたいことは全部聞ける関係なので、私が質問責めをして浅野さんがこれまでの経験を基に回答をする。そんなやり取りをしていく中で、受け入れ当日までの企画や調整などを進めていきました。

 そして高校生が浦幌に来る初日を迎えました。

高校生たちとの4日間

朝早く、東京から出てきた高校生をとかち帯広空港で出迎えました。それまでオンラインで何度か顔を合わせていましたが、対面するのは初めてなのでお互いに緊張していました。浦幌までの車内やオリエンテーションで積極的に声かけをし、高校生たちの緊張をほぐしていきます。

 今回の教育旅行のテーマは「まちづくり」や「起業」など。このテーマに関心を持った6名の高校生が浦幌に来ました。「高校生ってどんな感じかな」と自分の高校時代を思い返しながら高校生と対話をしていましたが、自分の高校時代と比べるのは申し訳ないほどそれぞれが社会で生きる中での自分の考えや軸を持って浦幌に来ていました。例えば「子どもたちの居場所」について。「最近は共働き世帯や親のネグレクトなどが増え、家に居場所がなく、居場所を求めて治安の悪い地域に子どもが集まるというニュースをよく見る。自分が子どもたちの為の安全な居場所を作れないか?浦幌にはどんな居場所の形があるのか」と話している高校生がいました。その他にも「プラスチックゴミと森林資源について」「移動について」「SNSにおけるルッキズムについて」など「そこまで考えているのか」と驚くしかありませんでした。

 そんな思考に長けている高校生たちには浦幌町を身体を通して体感してもらうべく、一次産業従事者の方々にお世話になって暮らしを体験してもらった他、テーマに沿って実際に起業した方や事業立ち上げに関わった人たちなどとの意見交換の時間を設けたりしました。

豆の竹立て作業
フキ採り
搾乳体験
井上町長との対談

初日に見せていた不安げな表情はすぐに消え、行く場所行く場所で「浦幌楽しい!」「来てよかった!」と口々にしていた高校生たちに、最終日に4日間の振り返り発表をしてもらいました。

「これまでしたことのない体験をたくさんした。浦幌に来なかったら全く知らないまま過ごしていたと思う。」

「浦幌の魅力を考えながら4日間過ごした。私の考える浦幌の魅力って “楽しい” ことなんじゃないかなと思った。今まで経験した修学旅行の中で一番楽しかった」

「浦幌の人たちは、僕達のことを “人” として認めてくれた。高校生の自分達の意見にも真剣に耳を傾けてくれて、「そうだよね」「その考え面白いね」って言ってくれた。自分もこうやって意見を持って良いんだって思わせてくれた」

「浦幌の人には自分の素を出せた。受け止めてくれる安心感があった」

「自分達それぞれが社会課題についてテーマを持って来たけど、それに捉われない発見が浦幌ではたくさんあった」

「東京に帰ったらまた、電車通学など1分1秒を争い、人混みに揉まれる日常に戻り、浦幌で感じた人の温かさを感じる機会が少なくなってしまう。この4日間で浦幌を経験した自分が東京に帰ったらまず何を感じるだろうか」

「東京に帰りたくない。なんならこのまま浦幌に住みたい」

 発表の中で上記のようなコメントがいくつもあり、楽しむことは然り、4日間で得た気づきや問いを自分の中に落とし込んでいたんだなと驚きました。今回、浅野さんと私の2人を中心にプログラムメンバーで試行錯誤しながら行った初めての受け入れでしたが、高校生6人全員が満足そうに東京に帰っていったので、満足度という視点で見ると成功といったところでしょうか。★

 ですが、この高校の受け入れ、6月で終わりではないんです。今回の受け入れの評判を基に同じ高校から違う生徒(もしかしたら同じ生徒も居るかも)が11月に来ることになっています。

 今回の受け入れで、私は「色々な体験をしてもらいたい」と「予算内に収めないといけない」という葛藤に悩みました。これまでは提供する内容のコストが経営に直結するような企画を担当していなかったため、前文で言うところの「色々な体験をしてもらいたい」という想い最優先で、予算についてそれほどシビアに考えたことがありませんでした。ですが今回は限られた少ない予算で体験料や人件費、宿泊関係、食事代を全て収めなければならず、「浦幌に来てくれたからには一次産業も体験してほしいし、出来るだけ多くの人と話せるようにして、たくさんの学びを持ち帰ってほしい。けど、全てを盛り込むと予算の倍額以上はかかってしまう。でも予算内に収めることだけを考えてしまうと校内評価が下がり、依頼が来なくなってしまうかもしれない」ということに最後の最後まで悩み続けて、結局、経営という視点で見ると失敗に終わりました。しかし、来年度以降は今回のような少人数の宿泊込みの受け入れプログラムをより多くの学校に広めていきたいと考えているため、どうしても解決したい問題であります。

 今後の連載では、11月の受け入れ、ひいては来年度以降の修学旅行生受け入れプログラムの設計に向けた私たちの試行錯誤をもう少し詳しくご紹介できればと思っています。

今回の受け入れ時の様子はこちら:教育旅行生受け入れ「浦幌で広がる可能性」

この連載について

変化していく修学旅行について現場からお伝えします!

著者紹介

(続 麻知子)

1998年札幌生まれ。国語科教員を目指し、筑波大学日本語・日本文化学類に入学。大学では国内・海外問わず様々な地域に赴き、その地域の歴史や暮らし、人々の関係性を調査することで、自身の環境を振り返る機会となった。大学卒業後、浦幌町地域おこし協力隊に就任し、十勝うらほろ樂舎ヤングフェローとして浦幌町に関わる子どもたちや若者と共に「たくましく生き抜く力」を身につけ、次世代を主体とした地域づくりを目指している。

浦幌町に来て、町の方々の生の声から学ぶことがとても多いです!一緒に悩み考えながら地域づくりに関わっていきたいと思っています!

意外な一面
これはここだけの話だが、自分自身やろうと思えば何でも出来ると思っている。そして負けず嫌いな一面も。学生時代に教員を目指していたのには、当時苦手意識を持っていた先生を、自分が素敵な先生になって見返してやろうという気持ちが結構強かったということはあまり公表していない。

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