先日、お伺いしていた畜産農家さんで、奇跡的に和牛の出産に立ち会えました。
お伺いしてすぐに、農家さんから「(牛が1頭が)いきんでいるからもう少しで生まれるかもしれない」と言われ、今まで出産場面を見たことがなかったので「絶対に生まれるまで待ってやる」と思って、居座らせていただきました。
しかし、数時間経っても生まれませんでした。
「こんなに出てこないことないよ。逆子かもなあ?引っ張った方が良いかも」。農家さん同士で話した後、母牛の子宮の様子を確認すると、すぐさま「引っ張るわ。お湯準備して」。その瞬間、場がピリついた雰囲気になりました。気が立っている母牛を囲いに入れて固定し、農家さんが母牛の肛門から手を入れているのを見ていると、子牛の脚が出てきました。その脚にロープをかけ、複数人で引っ張ります。すると、ぬるっと子牛が生まれました。
ほっとしたのも束の間でした。子牛は白目を剥き、仮死状態で生まれてきたのです。
農家さんたちが子牛をトントンと叩いて刺激を与えたり、お湯をかけたりしながら「おい!起きろ!起きろ!頑張れ!」と叫んでいました。それを何回も何回も繰り返し続けているのを、私はただひたすら呆然と立ち尽くして見ているしか出来ませんでした。
私が胸騒ぎを覚えながら呆然と立ち尽くしていたのは1分ほどだったでしょうか。とても長い時間でした。バケツの中の最後のお湯をかけた時、子牛が頭を上げました。
「あっぶねーーーーーーーーー!」
農家さんが言うには、あと5分遅かったらダメだったと。こう、なんだか、上手く言語化が出来ていませんが、「生命を目の当たりにした」と感じました。これまでも浦幌町に来てから、様々なものを通して「生命」について学んできたつもりでしたが、ここまで「生命」を強く感じたことはありませんでした。そんな、言語化できない想いを持ちながら、囲いから解放された母牛が子牛を舐めている様子をぼーっと見ていると、
「これが生きているか死んでいるかで何十万と違うからね」
この農家さんの一言で、牛の出産にかかる「生命」が子牛の「生命」だけではないのだと理解しました。
ここ最近で一番衝撃的な学びをした日でした。
このコラムについて
浦幌3年目の地域おこし協力隊が、活動の中でいただいた一言をご紹介します!
著者紹介
(続 麻知子)
1998年札幌生まれ。国語科教員を目指し、筑波大学日本語・日本文化学類に入学。大学では国内・海外問わず様々な地域に赴き、その地域の歴史や暮らし、人々の関係性を調査することで、自身の環境を振り返る機会となった。大学卒業後、浦幌町地域おこし協力隊に就任し、十勝うらほろ樂舎ヤングフェローとして浦幌町に関わる子どもたちや若者と共に「たくましく生き抜く力」を身につけ、次世代を主体とした地域づくりを目指している。
浦幌町に来て、町の方々の生の声から学ぶことがとても多いです!一緒に悩み考えながら地域づくりに関わっていきたいと思っています!