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「浦幌で生き方を考える」 全国から7名の大学生が来町。農業インターンで、キャリアや生き方を考える

浦幌町での農業インターンシッププログラムに、様々な期待や不安を抱えて参加した大学生たち。全国各地からこの町にやってきた大学生たちの中には、今回初めて飛行機に乗った人もいた。遠く離れた浦幌に来て、見知らぬ土地で、初めて会った人たちと関わり続けた9日間のプログラムを終えた大学生たちの目には涙が浮かんでいた…。

 本連載「農業と対話で”わたし”が変わる9日間」は今年(2023年)の3月9日〜17日に開催した「北海道十勝うらほろアグリダイブプログラム」での出来事を紹介していく。これは全国の大学生を対象に、子どもや若者などの「次世代」に繋ぐことを意識して活動をする農業者や経営者らと対話する、農作業をメインに据えたプログラムである。連載4回目である今回は、浦幌で実施したアグリダイブプログラムの2つの柱のうちの1つである「キャリアを考える対話」について書いていきたい。

今回のプログラムでは、計5回、8人のゲストと対話交流を行なった。地元出身の高校生、地域の教育活動に関わる方、地元の農家さんや在住の料理家さん、浦幌に移住をして地域コスメの会社の起業をした方、地元出身の木炭窯の継業者、浦幌町で新規に醸造所を設立しようとしている方々に来ていただいた。

 今の仕事や活動、活動をすることになった経緯や想い、今後の展望、乗り越えてきた困難やそこから生まれた信念などについて、ゲストの方から話していただいた後、大学生たちとの対話を繰り広げた。

「失敗してもいいと思える環境」って?

年齢も、仕事も、出身も多種多様な方たち。一見バラバラに見える人たちだが、それぞれの対話で紡がれた言葉には、「次の世代の子どもや若者がよかったと思える地域や社会、環境を目指していること」「浦幌町という町には支えてくれる存在がいるため失敗してもいいと思ってチャレンジしていること」という共通点があった。

 

 「次の世代の子どもや若者がよかったと思える地域や社会、環境を目指していること」は、私自身が浦幌に移住するきっかけであり、今も居続けたいと思っている「浦幌らしさ」である。今回、私は企画者としてこのプログラムに関わった。5回のプログラムでは毎回、対話交流の場を用意した。トークテーマも設定し、そのテーマに沿ったゲストにきていただいたのだが、この「浦幌らしさ」は学生たちに感じてほしいと思っていたプログラムの核心の一つであった。

 驚いたことが、5回の対話交流の場でなされたやりとりの共通点である「浦幌町という町には支えてくれる存在がいるため失敗してもいいと思ってチャレンジしていること」というのは、全く意図していなかったのに共通して出てきたということである。

「失敗してもいいと思える環境」とは、いったいどのような環境なのだろうか?

  浦幌に来てから5年目になる。これまで地域に支えていただきながら、多くの活動に関わらせていただいている。その中には、数多くの失敗もあった。その時、ご飯に誘ってくれた地元の方、真摯に言葉を伝えてくれた農家さん、同じ失敗を経てアドバイスをしてくれた先輩方などが助けてくださった。

 ふと思い返せば、何かをやろうと思った時のハードルが下がったのは浦幌にきてからのことである。何かやろうと思った時、地元の方々、いつも一緒に活動する仲間、いつも助けてくれる人たちの顔が浮かんでくるのだ。

 この地域で暮らす豊かさの一つとして、そうした関わり合いが大きくあると感じている。それは「失敗してもいいと思える」ようになるために必要なことなのだと思う。だからこそ私も、今こうしたプログラムの運営に関わり、それを大学生たちにも伝えたかったのだと改めて実感をすることとなった。

プログラムに関わった飲みの場にて。尊敬する浦幌の方たちと、一緒にプログラム進める方との3ショット。

次の世代が失敗してもいいと思える社会を

共通して語られていた「失敗してもいいと思える環境」ということについて、プログラムに参加していた大学生たちも驚いていた。そうした言葉を受けて、そうしたことを9日間のプログラムで自ら感じ取って、「自分の存在/やりたいこと/言葉を受け止めてくれる人がいるとは思わなかった」ということを期間中に発していた学生も何人もいた。

 「受け止めてくれる人が少なかった」ではなく、「受け止める人がいるとは思わなかった」と語られた言葉の背景に思いを馳せる。私が、私たちが、「次の世代の子どもや若者がよかったと思える地域や社会、環境を目指す」上で、やらなければならないことがまだまだ山積みであることを痛感する。

 プログラムの最終日には、「浦幌の方々のように何か困っている人や手伝いを求めている人がいればすぐに助けてあげられるような人になりたい」と発表する学生がいた。プログラムを経て、そうした発表を聴き、涙ながらに受け止める光景があった。まさに失敗をしてもいいと思えるような互いを助け合う仲間になったのだと、そう思う。

あなたの存在を受け止めてくれる人はいる。熱量ある言葉を交わし合い、理想に向けてともに悩み歩む仲間はいる。失敗するかもしれないけれど、やりたいことに挑戦しても大丈夫だし、それを支える人もいる。浦幌はそういう環境だよ。

 そんなことを、ここ浦幌でもっと感じられる環境を、そのためのプログラムをつくっていきたいと思うのである。

 

 アグリダイブプログラムはこの夏もまた開催を予定している。既に決まった開催でいうと、8月30日〜9月10日の期間で実施することになった。この町の可能性に触れて、未来に思いを馳せる12日間のプログラムにするべく、企画を進めている。

 ぜひ、全国各地の大学生に浦幌に来てほしい。少しでも気になった大学生はぜひ以下のURLを見てみてください。周りに興味ありそうな方や関心を持ってくれそうな大学関係の方などいましたら、ぜひ伝えていただきたいです。

この連載について

この連載では、浦幌で大学生が学ぶこのプログラムの実施過程で、私を含めた若者が生き生きと学び活動する姿や、その中での気付き、浦幌という次世代に繋ぐ活動を続けてきた町の「学びや挑戦のフィールドとしての可能性」を書いていきたい。どうかよろしくお願いいたします。

著者紹介

(古賀 詠風)こが えいふう

1996年北海道遠軽町生まれ。北海道大学教育学部で地域での教育や社会教育を学ぶ傍ら、「カタリバ」という対話的活動で高校生への授業運営と大学生への研修を担当。在学中、浦幌町の次世代を想う姿勢に惚れ、大学卒業後の2019 年より浦幌町地域おこし協力隊うらほろスタイル担当として移住。町の中高生が行う地域を舞台とした活動団体「浦幌部」のサポートや社会教育の場づくりなどを行う。3年の任期を終え、事業を連携して行っていた「十勝うらほろ樂舎」に2022年4月より入社。
古家具や器が好き。好みのものに出会うと「かわいい」しか語彙が無くなる。今年は陶器窯に行ってみたい。

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