浦幌町で初開催した農業インターンシッププログラム。大学生が浦幌にきて、昼は農作業、夜は地域の大人との対話を繰り広げた9日間。実際に参加をした大学生は、浦幌町での体験から何を感じていたのだろうか。
本連載「農業と対話で”わたし”が変わる9日間」は今年(2023年)の3月9日〜17日に開催した「北海道十勝うらほろアグリダイブプログラム」での出来事を紹介した。これは全国の大学生を対象に、子どもや若者などの「次世代」に繋ぐことを意識して活動をする農業者や経営者らとの対話と、農作業をメインに据えたプログラムである。
連載6回目である今回は、浦幌で3月に実施したアグリダイブプログラムに参加し、8月30日〜9月10日に行われる際には運営補助スタッフとして参加をする大学生に、プログラムや浦幌滞在の感想や、再度来町に向けた気持ちを聞いていく。
前回参加者のみゆちゃんに話を聞いてみました!
今回話を聞いたのは、大正大学地域創生学部地域創生学科の2年生の藤澤 未優(フジサワ ミユ)さん(以下、みゆちゃん)だ。開催した2023年3月、当時1年生の時に参加してくれた。夏にまた開催するプログラムにも合わせて、8月28日〜9月25日ごろまで再び浦幌に滞在する予定をしている。
実は十勝うらほろ樂舎の理事には、みゆちゃんが在学する大正大学地域創生学部で教授を務めている浦崎太郎先生がいる。浦幌町と浦崎先生の関係性は長く、これまで浦幌町に何度も足を運び、今は十勝うらほろ樂舎の理事としても関わってくださっている。
そんなみゆちゃんに、話を聞いていきたい。
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ーーみゆちゃん、今日はよろしくお願いします!さっそく、浦幌町でのアグリダイブプログラムの参加のきっかけや理由を教えてください!
参加したきっかけは、浦崎先生が学校でお知らせをしてくれたことでした。
大学1年生のころ、色々なことに挑戦をしていたのですが、自分の地域に対する想いに大きく影響を与えるほどのことはありませんでした。「それだけでいいのか?」「何かしたい!」という漠然な気持ちがあった時に、環境をガラッと変えられるこのプログラムのことを知り申し込みました。
祖母が畑をやっていたこともあり、「自分たちが生きていけるのは農家さんがいるからで、農業はすごい」という気持ちはありました。一方で、祖母の畑がなくなってしまったのも見てきたので、「なくなる産業」というイメージやなくなることに対して寂しいという気持ちもありました。その中で、農業がどういうものかを考え直してみたかったことも参加した理由の一つでした。
ーーありがとうございます。農業を考え直したいという想いを持って参加したアグリダイブプログラムだったんですね。3月のプログラムでは、日中は砂糖の原料である「ビート」という作物の作業に関わっていたと思いますが、浦幌町での農業・農作業・農場・農家さんはいかがでしたか?
農作業日初日は雨も降っていたし、周りも知らない人だらけで、丸一日同じ作業をする大変さや不安はありました。でも、毎日いろんなことを一緒にやっていくうちに、「これをしたらもっと良くなる」ということや農作業の大変さの共有を仲間や農家さんとできるようになっていって、徐々につながりが生まれました。最終日に近づくにつれて、「自分も大変だけど、自分の次の人が作業しやすくなるためにどうしよう?」ということも考えられて、最後まで頑張れました。
農家さんに対しては、「信じられないくらい受け入れてくれた」という感覚が強いです。「学生だから壁を作られるかもしれない」と思っていたのですが、「もっとこうしたほうがいい」「今学生生活どうなの?」などの等身大のコミュニケーションを取ってくれたので、深い関係性が築けたと思っています。それが本当に嬉しかったです。
農業自体は、地元と北海道で見た農業は規模が違うので、最初は衝撃的でした。地元の農業にはドミノ倒しで無くなっていく怖さを持っていましたが、北海道の農業にはここがあったら大丈夫という安心感を持ちました。例えば、祖母だったら、畑以外にいろいろしていることはあり、農業以外のパートで働いたりもしていました。今回会った農家さんは、農業を中心とした色々な取り組みをしているのを見れました。
農業のイメージが変わったというよりは、「新しい農業」を発見したという感覚です。ネットニュースを見ていたら、無くなってしまう扱いを受けていることもあるけど、こんなに前向きに色々なことをしている人たちがいるんだという気持ちになりました。
ーー農業に対しての印象はそう変わっていったんですね。プログラム中では、農作業だけでなく、毎晩農家さんや教育やまちづくりに関わる事業者さんなどたくさんの浦幌の人との対話の時間があったと思います。「何かしたい!」という気持ちを持って参加したみゆちゃんは、どんな話や言葉が印象に残っていますか?
夜のゲストの人たちが、「誰かが助けてくれると思ったから浦幌町で挑戦できた」という言葉を話していて、とても印象に残っています。
東京に帰ってきて感じるのは、「自分にはできないかも」「やっても意味ない」ということをみんな思っている、ということです。他にも、最終的には自分の責任だけで全てやらなきゃというのが当たり前だと思っていたし、その感覚は自分にもありました。
それと比べると、自分が何かをして、そこから誰かが助けてくれるという感覚が本当にすごいことだったんだなというのを感じています。
人が成長できるのは自分がやってみて初めて気が付くことが多いと思うので、失敗を恐れずやってみること、やらせてあげることの重要さを感じました。それも失敗の方がより多くのことを学ばせて今の自分を客観視させてくれる、そこから人は成長するんだろうなって思います。でも、この「失敗してもやらせてもらえる環境」って本当に少ないなって思うから、より浦幌の環境に興味を持ったし心にずっと残っているなと思います。
どうしてそう思える環境があるんだろう、生まれるんだろうというのが今気になっていることです。8月28日から浦幌にいる1カ月間でこの辺りをきちんと見てみたいと思っています。
他にも、浦幌で大麦の栽培とビールの醸造所の設立を目指すRIKKAのお二人の話も印象に残っています。特に、「自分の中から溢れ出たものが人を幸せにする」という言葉が印象に残っています。
私は、普段はなんでもいいと言ってしまったり、相手の気持ちや都合に合わせたりしてしまうことが多いです。その結果、何を考えてるかわからなくなったり、たまに爆発したりすることもあります。自分のことを蔑ろにしたいわけではないけど、なんでこうなるんだろうと思っていた中でこの言葉を聞いたので、心に残っています。自分が満たされていない状況の時は、人に気を使わせてしまうしこっちも辛くなると今では思っています。
ーー浦幌町に来た9日間、とても濃いものだったかと思います。4カ月経った今振り返ると、みゆちゃんにとって、改めて浦幌町はどんなまちでしたか?
東京に帰ってきた時と浦幌に来た時の差がすごくあります。帰ってきて、浦幌が自分にとって感覚的に居心地が良かった場所だったのをより感じています。
東京だとやっぱり個々が動く感覚が強く、他の人と生活を楽しむ、生活と一体となって続いていくというのがない。自分にとってそれはとても寂しいです。
もう一度浦幌に行って、「誰かが助けてくれるから挑戦して大丈夫だろう」という感覚がどこから来ているのか、もう一度自分の目で浦幌を見て知りたいというのが一つの理由としてあります。それを知っていくために、滞在中は、たまたま出会う人たちとのきっかけを大事にしたいと思っています。
運営補助スタッフとしても関わるアグリダイブプログラムを終了した後は、浦幌町内のゲストハウス「ハハハホステル」でヘルパーとして滞在する予定です。ハハハホステルにいる間も色々な人が来るので、地域の方たちとも色々な話をしたいと思っています。
ーー最後に、今後浦幌町での大学生の農業インターンシップ「アグリダイブプログラム」に参加を検討している方に対して、ひと言いただいてもいいですか?
浦幌は地域の中でも特殊というか、人の力を感じる町だなと思っています。人と関わる上での楽しさや、自分が今何を思ってこれからどうしていきたいのかなどを大切にしてほしいです。農業をしている時間や夜のゲストたちとの対話の時間では、変に気張らず楽しんでほしいし、自分に素直な気持ちで過ごしてほしいです。変に思い込みすぎず、なんとかなるさの精神でやれば楽しめると思います。
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居心地が良く、「誰かが助けてくれるから挑戦して大丈夫だろう」と思える浦幌町に再び1ヶ月間来ることに決めたみゆちゃん。また浦幌で会って、たくさんお話できること、本当に楽しみにしています。
8月28日〜9月25日ごろまでの滞在期間の前半は、8月30日〜9月10日に開催する夏のアグリダイブプログラムに運営補助スタッフとしてみゆちゃんも関わる予定です。また、プログラムを終了した後の滞在期間の後半の9月13日からは、浦幌町内のゲストハウス「ハハハホステル」のヘルパーとして関わる予定をしています。
また、みゆちゃんが農家さんなどに関わり心動かされたアグリダイブプログラムは浦幌町での第3回目として、9月23日〜27日にも上浦幌地区で実施することが決まりました!参加者募集中ですので、この記事を見て少しでも浦幌町のことやプログラムについて気になった方は、ページをチェックしてみてください!
浦幌町内の皆さん、アグリダイブプログラムやハハハホステルに関わる皆さん、みゆちゃんにぜひたくさん話しかけてあげてください。1カ月、よろしくお願いします!
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この連載について
この連載では、浦幌で大学生が学ぶこのプログラムの実施過程で、私を含めた若者が生き生きと学び活動する姿や、その中での気付き、浦幌という次世代に繋ぐ活動を続けてきた町の「学びや挑戦のフィールドとしての可能性」を書いていきたい。どうかよろしくお願いいたします。
著者紹介
(古賀 詠風)こが えいふう
1996年北海道遠軽町生まれ。北海道大学教育学部で地域での教育や社会教育を学ぶ傍ら、「カタリバ」という対話的活動で高校生への授業運営と大学生への研修を担当。在学中、浦幌町の次世代を想う姿勢に惚れ、大学卒業後の2019 年より浦幌町地域おこし協力隊うらほろスタイル担当として移住。町の中高生が行う地域を舞台とした活動団体「浦幌部」のサポートや社会教育の場づくりなどを行う。3年の任期を終え、事業を連携して行っていた「十勝うらほろ樂舎」に2022年4月より入社。
古家具や器が好き。好みのものに出会うと「かわいい」しか語彙が無くなる。今年は陶器窯に行ってみたい。